そういえば、昔「水着シーンあります」という宣伝文句に誘われて観に行った芝居で、誰も着ていないただの水着がさりげなく吊るされているシーンが何度も登場し、「ああ、紛れもなく水着シーンだなあ」と心温まる思いをしたことがあります。

 こう見えて、女の子に水着を着せてあれこれする公演をやったのは一度や二度じゃありません。

 初めて女子に水着を着せたのは、学生のときの、チャリT企画の企画公演「7.10(ナットウ)」というのがありまして、その中で、「イトウが自分の作ったダジャレを次々に披露していく横で無関係に水着でダンスを踊り続ける」という役をWという女優に演じてもらったことがあります。(その7ヶ月後、Wは女優を辞して小劇場界を去っていくのですが、それとこれとに何の関連もないことは火を見るくらい明らかです。)

 公演開催の数日前、朝10時に高田馬場BIGBOX前へ集合した僕とWは、世界でたった二人、ダジャレの為に水着を求めショップを巡りました。朝マックの終わった朝マクドで綿密に打ち合わせをし、「Wの彼氏にはイトウと二人で水着を買いに行ったことは永久に秘密」ということで気持ちを一つにした僕らは、池袋東口、P’パルコの最上階で開催中の水着楽園(とかいう催事)にたどり着きました。(ちなみに、「永久の秘密」と言いながら、インターネット上にその全貌がアップされているのは、Wとその当時の彼氏がもう3年以上前に破局しているからに他ありません。)

 僕とWを完全にカップルだと勘違いした女子店員さんが、「彼女さん、きっとこういうのお似合いですよ」とアニマルプリントのビキニを勧めてきました。いやいや「彼女」じゃないし絶対「お似合い」じゃないですよ馬鹿と思いながらも、その店員さんの顔が可愛いかったのであまり邪険にもできません。それに、確かにカップルで(彼女の)水着を買いに着てる男女が、店内には多かったのです。勘違いしたとしても顔の可愛い店員さんに罪はなかったのです。そんな水着楽園の試着室では、若いカップル達がキャッキャと水着を選んでいたのを思い出します。

彼女:これ、どうかな可愛い?
彼氏:ああ、いいんじゃん(恥ずかしそう)
彼女:ちょっとー、ちゃんと見て言ってよー、決められないじゃん!
彼氏:いや、えーと、可愛いよ、うん
彼女:ほんと、やったー。あ、でもこっちも着て見ようかなあ(カーテンを閉める)
彼氏:(女子水着ばかりの店内に取り残されモジモジ)

そんなカップル達を尻目に僕とWは、

W:どうですか、伊藤さん
伊藤:いや、それじゃ笑えないって。なんかW、まだ「そうは言っても少しは可愛いく見せたい」みたいな邪心が残ってんじゃないの?
W:ええ?でも私が着たら、少なからず可愛くは見えちゃいますよ
伊藤:時間ないからふざけないで(真剣)
W:すみません、じゃ、次これ着てみますね(カーテンを閉める)
伊藤:(少しでも時間を有効に使おうと、ハンガーに掛かった女子水着を血眼で物色)

 そんな苦労の甲斐もあって、ついにこれだという一着を見つけた僕とWが、「どうも彼氏&彼女ではないらしい…」とようやく察した顔の可愛い店員さん、レジを打つ手を止めずに「ひょっとして演劇か何かですか?」と尋ねてきました。僕は「顔が可愛いだけあって勘も鋭い」と感心しながらも、「こんな顔の可愛い店員さんに演劇なんて恥ずかしいものをやっている人間と思われるわけにはいかない」という本能が働き、思わず「ち、違います。イベントです」とよく分からないごまかし方をしてWの失笑を買ったのでした。

 Wに買ってやったビキニ ¥14800
 Wに買ってやったタオル地のうわっぱり ¥6800
 水着でダジャレの為に踊ってくれるWの女優魂 priceless(無価値)

 …そんな時代もあったねと、遠い夏の日の思い出です。

※Wはその後、某有名人材派遣会社に就職し、今も「クリエイター」や「アーティスト」になりたい若者や元若者たちを食い物にして支え続けながら、幸せに暮らしています。めでたし。

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