▲次回公演

先日、知人の女子と飲んでいたら、ノリで「絶対いつか結婚しようね」「うん、そうだね」ということになりました。朝まで飲んで結構盛り上がったのですが、そのまま婚姻届けを出しに行こうとか、ドンキに指輪を買いに行こうとかいうのは、リアルな感じで敷居が高かったので、というかシャレにならないので、代わりに電柱に貼られていた不動産屋のチラシを剥がして、分譲マンションを見に行くことにしました。

 

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「開放感あふれる最上階の3方角部屋!!希少なダブル・ルーフ・バルコニー!!」

「都心立地でこの『開放感』は希少です!!」

「『希少な即入居可』物件!!OPEN ROOM当日はお部屋を『開放』しております!!」

 

この部屋の「希少さ!!」と「開放感!!」ばかりがビシビシ伝わってくる、二色刷りのチープなチラシを手に、開放感も希少さも無いチェーンの居酒屋で飲み明かした自分たちには、それも良かろうと。ボロ靴にボロい鞄を提げたまま、4280万円のその部屋へ二人、ずかずかと上がりこみました。

 

「おっ邪魔しマース!」
女子の場違いに元気な挨拶に「い…らしゃいませ」笑顔を引きつらせる背広姿の方々。明らかに学生テイストな服装の女子に続いて、明らかに無職テイストの貧相な男子(実は俳優兼劇作家)、やべえの来ちゃったよ、流れる不穏な空気。でも、そこはさすが営業職の方々、すぐに分け隔てのないスマイルで部屋を案内してくれました。「どなたでもご自由に」って書いてあったんだ、僕だって見に来たっていいはずだ。なのにこいつ、取り繕って笑いやがって、、、そんな被害妄想と裏腹に「なるほどー対面キッチンですか、さすがですねえ!」何がさすがなのか、妙に低姿勢になってしまう自分がいました。

対照的に、女子はご案内を無視して室内を歩き回る見て回る、そんな所を勝手に開ける、ちょっとちょっとそれは自由過ぎるよ。ヒヤヒヤそしてニヤニヤしながらご案内さんの顔色を伺っていたら、「ところで、ご家族はお二人さま…だけでしょうか?」

 

「はい、僕と、、、妻の二人だけです。」

 

highness_kitchen これを言うために、僕等はここに来たのです。目的達成。恥ずかしいからもう帰りたいなあ、と意味不明に僕がモジモジしていたら「なるほどー!奥様と。そうですかあ、それはいいですねえ!」何がいいのか、ご案内の方が妙に食いついてきました。「じゃあ、いずれお子様も」「はい、まあ。へへへ」まだ手もつないでないので、お子様はなかなか。「ご結婚されて、どのくらいに」「いやあ、まだ二年経たないくらいでして」なにしろ昨日の飲みのノリなもので。「お二人の新居のご購入ということで?」「はい、まあそうですね」今、財布の中諭吉が一人きりです。

 

いやあ困った困ったと、「ちょっと自由に色々見ていいですか?」ご案内さんから少しでも離れようと、角部屋を見にいった女子のもとへ、小走りに逃げます。女子は角部屋のサッシやら収納やらを好き勝手開けたり閉めたり、壁面をスパイ等がするようにに叩いて音を調べたり、マンション見学ってそうじゃなくね?そんなツッコミを入れるのが無粋に思えるような満面の笑みで「ここ良くない?絶対子供部屋だよね☆」僕の腕を掴んで揺すります。可愛い。

結婚、悪くないかも。一人悦に入っていたら、「ここに、ベッドをおいてえ、」女子が子供部屋のレイアウトを決め始めました。「いやいや、でも収納の前にベッドを置いたらドアが開かないからさ」「でね、ここに勉強机をおくの」「いやいや、でも出入り口に机を置いたら出入りができないからさ」「やっぱ、子供3人くらいは欲しいよねえ」「いやいや、僕は1人で十分だよ。それで女の子だったら制服の可愛い私立の小学校に入れよう」「でね、やっぱ自然の多い所で伸び伸び育てたいな」「いやいや、それは親のエゴかもしれないよ。それでもし女の子だったら都心のバレエ教室に通わせようよ。レオタードとかね」「…もし男の子だったら?」「いや、気合で女の子産む」「産むのわたしだよ」まだ見ぬ我が子を想い、二人の夢は膨らみます。

 

ところでこの部屋何畳くらいなんだろうね、という話になり、すると廊下の物陰からさっきのご案内さんが「ここはですね~、5.6畳になりますね~」すすっと部屋と話題に入り込んできました。ずっとそこで隙を伺っていたのか、しまったこれまでの恥ずかしい会話が全部聞かれて恥ずかしい、僕がうつむいていると、

「あれえ、ねえイトウさん、ここの床ブヨブヨするよ~笑」
女子が子供部屋の一角で足踏みしたり、飛び跳ねて床板の感触を確かめています。というか、今俺のこと苗字で呼んだでしょ、奥さん!「うわあ、やばい。欠陥工事?欠陥工事?これって、子供が飛び跳ねたら、抜けちゃうんじゃないですか?」「…抜けません。大丈夫ですよ」ご案内さんの返事に歯切れがありません。「でも、ほら、ここー」ああ、この女子は立派な会社人の皆さんがプライドを持って売ってる物件にムゲなことを言って、、、ご案内さん目が泳いじゃってるよ?なんとかフォローしてあげたい僕「いやあ、まあ固いところもあれば柔らかいところもありますよねーアハハハ」誰のためにもならない発言をしてしまいました。

このマンション、築25年のところをリフォームして売りに出しています。その辺、鑑みて見学してあげないと可哀想なのです。

「あの、ちなみにここ築25年というお話でしたけど、、、」「はい」「ちなみにここ、あと何年くらいもつんですかね?」「ええと、、、それは」にわかにご案内さんの顔が曇ります。「一概には言えないんですが、住み方にもよるんですが、皆さんが大切に住めばどんどん耐久年数は増えますよ」「ん、ということはここは?」「いやあ、一概には言えないんです。一概には」「じゃあ、一般的な、一般的な話で言うと普通のマンションというのはどれくらい…」「まあ、一概には言えないんですが、…60年くらいですかね」「ということはあと35年…」「ですから、一概には言えないんです!皆さんが死ぬまではもちますよ!」逆ギレされても、定年前に死ぬのは嫌です。

 

highness_iving部屋の備品の匂い等を嗅いで周り疲れた(?)女子がリビングのソファに座ったので、僕も並んで腰を下ろしました。すると対面に現れたご案内さん、いつの間にか書類束を目の前に広げています。さすが、素早い。
褒める間もなく、お金の話が始まりました。「ご年収は?」「650万くらいです」友達が。年収って”ご”を付けるんだなあ。「自己資金は?」「100万くらいしか無いんですよ」気持ち的には。「なるほどー。大丈夫、十分ご購入いただけますよ」「え、そうなんですか?」マジで??「ローンのお話とか初めてですか?」「はい」月収の35%が月々返済額の目安ですうんぬんかんぬん、いかがですか?さあ、買うか買わざるか?(買えないけど!)

「…あのあのあのお、ここってペットおっけーなんですかあ?」「あ、ペットは禁止になってます」「あ、じゃあだめだわ」え、ペット飼う気だったの女子?「今、何かペットを飼ってらっしゃるんですか?」「ううん、いつか猫飼いたい」いつかって…。というかもうご案内さんに完全タメ口のこの女子。。。可愛いなあ…。

「ありあした~!」
女子の場違いに元気な帰りの挨拶に、今度は動じることもなく「どうもありがとうございました。ペット可の物件の資料、お送りしますね」めげずに僕らを送り出してくれたご案内さん。(名刺をいただきました。●●島さん←お世話になりました)玄関のドアを出てすぐ、女子が大きな声で「ひゃっほー、冷やかし冷やかしたっのしー!!」「聞こえるって」

その後、マンションの近所のおしゃれカフェで反省会をしました。
夫婦ごっこ楽しかったね。ごっこなの?いやあ、それは…。でもいつか一緒に住めるといいね、マンション。そうだね。今度は1億円以上するとこ見に行こうね。そうだね行こうね。デザイナーズマンションとかね。デザイナー住んでるかな。住んでないよ。アハハ。

 

 

演劇して、マンション買った、という知り合いは僕にはまだいません。
小劇場界というのは、日本で5指に入るような有名な劇作家でも「最近マンションを買ったらしい」というのが、ビッグニュースとして流れるレベルの世界です。
そんな僕でも結婚はぜひしてみたいです。 もちろんマンションだって買いますし、娘も産みます。

ですので、今後とも何卒よろしくお願いいたします。


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