▲次回公演

1/19の夜に帰宅した途端、「永遠に原石」女優・帯金嬢から電話が掛かってきまして、
「イトウさん、今からセンター試験が始まるんで至急駆けつけてください!!」
と、受話器越しいつになく切羽詰まった声で言うので、
「イヤです」
と答えたところ、
「急いでください!!」
と言うので、
「イヤです」
と答えたところ、
「奈々さんに電話換わりますね!!」
と言って、「どんな芝居でも物の怪演技」女優・内山嬢が電話に出まして、
「イトウさん、今から対抗戦でセンター試験をやるらしいんで、来(こ)らっしゃったら良いじゃないですか?」
と、言うので、
「対抗戦て他に誰かいるの?」
と聞いたところ、
「えーとですね、あと美香と大塩くん(劇団北京蝶々主宰)と、美香の彼氏だかなんだかみたいな人が来るらしいですよ。来らっしゃったら良いと思いますよ?」
と言うので、
「でも俺、明日朝早いし夕飯も食べてないしやらなきゃいけない仕事もあるから」
と答えたところ、
「由香利に換わりますね」
と言って、「最近金髪にしてから、行く末は飯島愛だと所属劇団内で陰口を叩かれているらしい」女優・帯金嬢が電話に出まして、
「ご飯がまだなんですね。じゃあ作ります。急いでください!!」
と言って電話を「自分の自転車をポチと名付けて餌までやっているらしい」女優・内山嬢に換わって、
「遅くとも22:30までに付いてください。それ以上待たされると、私(わたくし)が眠くなってしまうので」
と言うので、
「その時間から、センター試験なんてやったら確実に俺終電ないんだけど?」
と聞くと、
「この家には、私と由香利の持っている二台もの自転車があります」
と、中学英語の日本語訳みたいな口調で答えるので、
「チャリでクソ夜中にクソ寒い中をクソ長い距離走って帰れと?」
と穏やかに尋ねたところ、
「由香利と美香は朝まで飲むかもと言ってますよ?私は試験が終わったら寝ますけど」
と言うので、
「でも、俺ほんと明日朝早いから」
と、もう半分諦めた感じの声で答えたら、
「私も明日はバイトです」
と言って電話が切られたので、今帰宅したばかりの自宅を出て、電車に飛び乗り、試験会場である通称チャリTハウス(ルームシェアで住んでいる三人の女優が、みんな劇団チャリ企画に所属、もしくは所属していたことがあるから)に向かいました。

 
 
試験会場の玄関を開けて、ダイニングキッチン(2嬢半)に入ると、「遅すぎる思春期」女優・小杉美香嬢がシチューを煮ていました。
「お、いい匂いだね!何作ってるの?」
尋ねたところ、
「あ、彼氏が来るんで…えへへ。イトウさんのじゃないです。イトウさんのご飯は、さっき由香利さんが適当に作ってました」
と言うので、シチューをくれるまで君の顔をみつめ続けるよ、という意味を込めた微笑みでみつめ続けていたところ、味見用の皿みたいな(非常に小さい)のによそってくれたので、
「うわ、すごい美味しいね!」
本気で美味しかったのでお世辞抜きで褒めたのに、「無理してタバコも吸う」女優・小杉嬢は、
「えへへ…彼氏が来るんで」
と言ったきり、二度とイトウにシチューをくれませんでした。

 
 
試験会場である帯金嬢ルームに入室すると、帯金嬢がちゃぶ台にパスタの皿をのせて、それらを食べろと言ってきました。盛り付けと言うよりは「ぶっこんだ」という風情の男らしい麺類を指して、
「これかけると美味いっすよ」
と言って「味塩コショウ」を差し出すので、言われるがままにかけて食してみれば、案外に美味しく、ああ、味塩コショウとはおいしいものなんだなあ、しみじみ思ったのでした。
「あれ、内山さんは?」
と姿の見えない内山嬢のことを尋ねたところ、
「ああ、試験に備えて寝るって言って、部屋に戻りました」
と言うので、
「え?それ本当に起きるの?」
と聞いたところ、
「さあ?」
と言うので、
「大塩くん(劇団北京蝶々主宰)は?」
と姿の見えない大塩氏のことを尋ねたところ、
「いや、来るって行ってたんですけど、その後電話が繋がんなくなっちゃって…たぶん寝てるんじゃないですかね?」
と言うので、
「美香の彼氏(だかなんだかみたいな人)は?」
と姿の見えない美香の彼氏だかなんだかみたいな人のことを尋ねたところ、
「最近会ってくれないって、美香が嘆いてました」
と言うので、
「え、じゃあ男誰も来ないじゃん?」
と聞くと、
「そうっすね。じゃあハーレムじゃないですか?良かったじゃないですか」
と言うので、
「ほんとに試験はやるんだよね?」
と聞くと、
「試験はやります」
あ、そこは決定なんだ、という感じにキッパリと言うので、
「じゃあ、早くやろうよ」
と言うと、
「あたしちょっと勉強してきます」
と言って帯金嬢は隣の部屋(美香嬢ルーム)に去っていきました。

 
 
そこから1時間あまりした、日付変わって01:10、いつの間に現れたのか、内山嬢が試験問題を配り始めました。どうやら、今日は「国語」だけの勝負のようです。
「え、美香、彼氏は?結局来ないの?」
と、一応尋ねたところ、
「そのことには…もう触れないでください!」
と思春期特有の繊細さで、心なしか目に涙も溜めていたので、
「え、美香の彼氏は今日はもう来なそうなの?」
と追い討ちをかけます。
シチューをくれなかったせいではありません。

 
 
対抗戦だから、どうゆうペアにしようか?
自慢じゃありませんが、イトウはほとんど他の教科は勉強せずに、国語の得点力だけで大学に受かったようなものですというのが自慢です。イトウと組めば圧倒的に有利です。4年前にやったセンター試験大会(国語のみ)でも、内山嬢に8点差(一問8点)を付けて勝ちました。俺と組みたい奴、この指とまれ。
という感じで募集したところ、
「じゃあジャンケンで分けましょう」
という内山嬢の案が採用され、あっさりと「イトウ-帯金」ペア、「内山-小杉」ペアが結成されました。

 
 
はじめ!の合図で試験が開始されます。
皆、昔取った杵柄、それでも問題を前にすれば受験生の血が騒ぎます。
もちろん、長文読解を長文から読み始めるような素人はこの部屋にいません。腐っても皆元受験戦士。先に問題文とその選択肢に目を通してから長文を効率良く読むのです。そして、そこからは各人、オリジナルの必勝メソッド、キーワードを囲みながら読む者あり…一段落丸々消すものあり…。ザシュっザシュっ!鉛筆の音だけが響き渡ります。

 
 
そしてあっという間に、残り時間は40分になった頃。
小杉嬢が、ばっと答案をひっくり返して隣室に去って行きました。
何が起こった!?
試験会場に走る緊張。
しばらくあって、
「どうして*****++@><+:***のよっ!!??」
深夜のハウスに一瞬響いて消えた怒声。
どうやら、彼氏だかなんだかの人と電話をしているようです。
残された3人は思いました。
「しめしめ、これで一人脱落」
とうとう小杉嬢は試験終了の時間まで戻って来ませんでした。

 
 
そして、長いようで短かった100分間が終わり、いよいよ答え合わせです。
注目の成績発表は、以下の通りでした。


 

 

イトウ

帯金

内山

小杉

現代論説文

42

26

46

42

現代物語文

35

34

46

50

古文

36

30

40

31

漢文

24

42

25

34

合計点

137

132

157

157

 

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「なんすか、伊藤さんマジ口だけじゃないっすかー?うっわー組む人失敗したーー!!」
「いや、小説で一ページ見逃してやり忘れたのと、漢文がごにょごにょ…」
「この口だけ野郎!!」
「でも↑点数から言って、由香利さんと組んだ人は必ず負けた運命ですよね?」
「私、朝バイトなんで、もう眠いんで、寝ます」
「つうか、美香、なんで途中で出てったのにこんなにできてんの!?ずるくない!?」
「たしかに、俺も美香は脱落だなって思ってた」
「え?なんでですか?解き終わったから出ただけですよ」
「キーーー!!!」
「美香すごいわ」
「私、高校大学エスカレーターだったんで、受験問題って初めてやりました。楽しかったです」
「え、マジ!?」
「嘘~?」
「いやあ。でも伊藤さん、ほんと口ほどにもありませんでしたね」

 
 
それから、美香の恋バナを聞いたり、美香おススメの「テニスの王子様ミュージカル版の役者達の滑舌が悪すぎて歌詞が全部下ネタに聞こえるというニコニコ動画」を見て(2回)爆笑したり、美香がその下ネタを自分でつぶやいて自分でウケたりしてるのを、「そういうのはあまり笑えない」という温かくも厳しい目で見たりしているうちに朝になったので、電車に乗って、仕事に行きました。眠かったです。

 
 
口ほどにもない国語力の劇作家イトウですが、皆様何卒、これからもよろしくお願いいたします。


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