▲次回公演

きっかけはいくつかあったのですが、先の公演への出演オファーをしていたとある女子が、「演劇をやめます、まっとうに生きます(さようならイトウさん)」と言うので、それはちょっと!と思いなんとかイトウのことを忘れないで、これからもときどき会ってと食い下がっていると「バンドならやってもいいよ」と言うのです。

 
仕方がないので、知人で昔ミュージシャンを目指していた元IT社長で今は共通の知り合いである某女子の家来的な存在になっているM崎氏にギターを習いはじめました。ミュージシャンを目指していただけあって、M崎氏は作詞作曲をはじめ、ベースやドラム等も一通りこなせるオールインワンな39歳です。歳も社会的地位もイトウよりはるかに上な人なのですが、某女子の上司かつ家来的な存在なので、なんでかイトウにも良くしていただいているのです。いろいろ謎です。

 
とりあえず練習してみるかと言われ、近所の貸しスタジオに入りました。

 
当たり前ですが、ギターやら楽器やらを担いだ髪の色の明るい若者がその辺をうようよしています。イトウもM崎氏から借りたギターを黒い袋に入れて背負ってはいるのですが、万一持ち方等が間違っていて初心者だとばれたら、物陰に呼ばれてひどいことをされるんじゃないかと気が気でありません。

 
「なんか、音楽やってそうな人ばっかで怖いですね」
「あたりまえだろ、つうかイトウも音楽やるんだから」
「うへへ」
 
 
そうこうしてる間にM崎氏が受付で受付を始めました。ああ、スタジオって受付で受付をするんだなあ、カラオケボックスみたいだ等ぼんやり思っていると「あ、シールド貸してください」「はい、1本でいいですか?」「2本で」というやりとり。シールドってなんだろう、普通の英語力で考えると盾ですけど。盾ですかやっぱり。そうこうしてる間に2本のコードを受け取ったM崎氏が「いくよ」とスタスタ地下スタへの階段を降りていきます。盾じゃなくてコードかと思ってイトウも追いかけます。

 
「で、イトウはさ、ギターどれくらい弾けるの?」

 
実はイトウ、こう見えてギターを手にするのは初めてではありません。
高校3年の冬休み、受験戦争もう負けそうというセンター試験の三週前、親友N谷氏の「高校最後のバレンタインまであと二カ月切ってんだぞ」という今となってはよくわからない説得にあい、焼津市民バザーでアコースティックギター(3800円)を買ったのです。

 
その後、懸命に練習を続けたイトウとN谷氏でしたが、「F」という人類には少しだけ押さえる弦の多過ぎたコードを前に自らの才能の限界を悟り、ギターの道を諦めました。高校生活最後のバレンタインデーは例年通りつつがなく過ぎ、二人とも第一志望に落ちはしましたが、人生に無駄な経験なんて何一つありませんし、それ以来、音楽活動とはなるべく距離を置いて生きてきたわけです。

 
「つまりまったく弾けないと。じゃあどういうのやりたい?」
「えーと、がなくてすごい弾けてるように見えるのってありますか?」
「うーん、じゃあディランニルヴァーナかな」
「そんな偉人みたいなのを出されても」
「いやいや、日本のねJポップみたいのはやたらコード多いし変なコードばっかだから逆に難しいよ」
「そ、そうなんすか…」
「いい曲は結局、シンプルイズベストだから」
「はあ」

 
それから課題曲と2、3の簡単なコードを教わり、YouTubeでニルヴァーナのボーカルで27歳で死んだというカート・コバーンのライブ映像を見て顔をコピーしろという不可能な宿題をもらい、昔カート・コバーンにそっくりの外人に彼女を寝取られたんだというM崎氏の思い出話を聞いて、そいつの顔をコピーしてつまりどうしろと?という疑問&不安を胸に、家に帰りました。

 
その後、一日5分の自宅練習を数か月続けていますが、顔真似もFもなかなか思うようにはいきません。メジャーデビューへの道のりは遠いです。ていうかまずはバンド組まないと。

 
bal*画像は、ナボコフの小説「ロリータ」の表紙絵を描いた画家として有名なバルテュスの出世作「ギターのレッスン」です。

 
イトウが弾いているのはもちろん普通のギターですが、誤解のないように一応載せておきました。タイトルにも(非エロ)と注釈をつけているのでよもや間違える方はいないと思います。











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